貴州省の神

2008-06-25




貴州省貴陽市の「神」─なぜたった1文字、神を大書するのか?

テーマ:東アジアの民間信仰

貴州省の省都、貴陽市郊外の古鎮、青岩鎮の民家では、家の母屋に神様を祀りますが、その祀り方が変わっています。


真四角の紅紙に、ただ一字、「神」と書いているだけなのです。


中国では、神はかならず名前がついていて、富の神だったら「財神」、子孫繁栄の女神であったら、「子孫娘娘」(娘娘〈ニャンニャン〉は女神の意味)などと具体的な名前を伴って祭祀されます。


ところが、ここでは、家を守る神は「神」としか呼ばれていないのです。


神をこのよう抽象化して「神」としてのみ呼ぶ習俗は、中国各地で他にみられないと思われるであろう程、珍しい習俗だと思います。




しかも「神」と書かれた紅紙の下には、財神の神像が版画に刷られて紅紙で張られていますし、机の下には、住居の土地に関わる土地神の神位が同じく紅紙に大書されて貼られています。「鎮宅土地神位」と書き、左右にその脇侍として、「進宝郎君」「招財童子」の二位の神名が記されているのです。


ちなみにこの二名の脇侍は、明代の小説『封神演義』で財神趙公明の部下です。


母屋中央の空間には、他の地方ではどのような神名が記されているかといいますと、たとえば貴州省西部の安順市の漢族(明代以来移民として居住)の人たちの祭祀していた清代の位牌には、次のような神名が掲げられています。


(中央部)

天地君親師位 (天神地祇と君主と親と師匠の位牌)


(向かって右上)

求財感応文武財神 (文官・武人の二種の財神)

大聖至聖先師孔子 (孔子)

七曲梓潼文昌帝君 (学問の神)


(向かって右下) 

和合二聖利市仙官 (家庭和合の神と商売繁盛の神)

四配十哲両廡先賢 (孔子の弟子、著名な儒者たち)

科場主宰助筆魁神 (科挙合格を司る魁星の神)


(向かって左上)

徽州府王忠烈汪王 (安徽の徽州の神・祖先の出身地の神)

通天都府華光大帝 (火神華光大帝)

東厨司命太乙竈王 (竈神)


(向かって左下)

丑午宮中牛馬二王 (牛神・馬神)

当年太歳至徳尊神 (その歳を司る歳神)

沛国堂上歴代宗祖 (歴代の祖先)




机の下は土地神の神位がありますが、「鎮宅中霤土地夫人」と書いてあり、「中霤」とは中庭を指し、門・戸・竈など、住居の各所を神として祭祀した古代の「五祀」の名残りで、それが夫人の神とされているのは、女性の地神でとされる后土神を指すものと思われます。


土地の神の神位の両脇には、「招財」「進宝」として、二位の財神の部下の名を記すのは、青岩鎮のものと同様です。


つまり、貴州省の漢族は、本来母屋中央の部屋には、このようにかつて全国一律に祭祀されていた「天地君親師位」の位牌の他に、これらの多数の神をもあわせて祭祀していたのです。


ところが、今ではこれほど多数の神の名を記して壁に貼るというのは、たいそう繁雑な作業になります。したがって、これら多数の神をいちどに「神」として大書してまとめてしまったというのが、貴州省にみられる「神」の一字の由来なのではないかと思います。たぶん抽象化された神概念が成立し云々、というような神学的議論が背景にあるのではないのでしょう。