牧岡奈美『南柯』─島唄アルバムその1

2007-09-26




牧岡奈美さんの『南柯』を聞いてみました。
奄美の唄者(ウタシャ)の方で、ジャバラレコードから出たCDです。プロデューサーはもちろんジャバラレコード代表の森
田純一さんです。
敢えて奄美島唄に欠かせないといってもいい、三味線とお囃子を使わず(お囃子は一部使用)、ピアノ、ヴァイオリン、ギ
ターをパックに使っています。奄美の民謡と唄者を知り尽くした森田さんらしく、歌い手の個性を引き出す味付けの仕方で、
納得がいきます。よく考えてあるプロデュースだと思いますし、森田さんには脱帽です。
牧岡さんのゆったりとした伸びやかなやわらかい歌い方が、それらの楽器ととてもよくあうのです。

牧岡さんは喜界島の出身で、平たいこの島のサトウキビ畑をやさしく撫でるようにそよいでゆく海風を思わせる唄です。
声に甘さがあり、同世代の唄者である中村瑞希さんのもつ、巫女のような透き通った、ハリのある歌声とも違う、ぬくも
りを豊かにもった歌声です。声に天性のかわいさも感じます。
3番目の「諸鈍長浜」を聞いてみてください。なんと愛らしく、伸びやかな歌声なのでしょう。
おかしな期待かもしれませんが、これからお年をとればとるほど、味わい深い声になることでしょう。
今後共に期待できる方だと思います。
最後収録の奄美の別れ唄『行きゅんにゃ加那』は、血も涙もある一人の人間が、悠々と哀感を歌いあげている牧岡さんの
声が、潮騒のように耳にいつまでも残るのでした。

牧岡奈美さんや中村瑞希さんの唄に感じ入ってしまうのは、彼女らが、ともに専属プロ歌手としてデビューという形を取
らず、保育士、幼稚園の先生といった職に就きながら、シマに生きる生活者であるということ、シマの一人間として当た
り前のように、呼吸をするように唄を唱っているということに、好感を感じるからだと思うのです(男性の唄者でもたと
えば、坪山豊さんは著名な船大工、前山真吾さんは介護士が本職です)。


アルバム・タイトルの「南柯」は”南にさし出た枝”の意味。中国故事「南柯太守伝」に由来する”はかない夢”のこと。
また「柯」は椎の木の意味でもあり。スダジイ(別名:板椎イタジイ)は奄美大島の照葉樹林帯を構成する代表的な常緑樹。
毒蛇ハブと共に奄美の自然を守っている。(メタカンパニーホームページでの同アルバムの解説より)


牧岡さんは1983年喜界町生まれ。小学校のころから島唄を習い始め県民謡王座決定戦、奄美民謡大賞などで活躍した。
奄美看護福祉専門学校を卒業し、名瀬市で保育士として働いている(『南海日日新聞』2005年5月18日の記事より)。
県民民謡王名人位。デビューアルバムに『うふくんでーた』(ジャバラレコード・ありがとうの意味、2001年)がある。