『マジムン』─島唄アルバムその3

2007-10-01


『マジムン』(ジャバラレコード、2006年)という怖いタイトルのアルバムを買ってしまいました。
「マジムン(魔物)が棲む南の島奄美で生まれた不思議な唄の数々、聴いてたぼれ」と、ジャバラレコードのホームページ
はキャッチコピーをつけています。
マジムンとは、沖縄・奄美の言葉で、「魔物」のことです。人霊あり、動物精あり、道具の精(付喪神)など、魔物すべて
を指し、ヤマトの言葉でいう「化け物」に近い言葉でしょう。
ただ、このアルバムのタイトルは、CDにハブの皮のプリント、ジャケットにハブ獲り名人のイラストが描いてあり、ハブを
指していることがわかります。
同じくジャバラレコードのホームページでの本CDの紹介。「タイトルの「マジムン」とは奄美の方言で「魔物」の意味。奄
美で毒蛇ハブはマジムンとも呼ばれ、昔から蛇の皮を持つと「ジンムッチャニナティ、アクヨケダカシュンド」(金持ちに
なって魔除けになるぞ)と言われています」つまりはそういうことです(青森県にも「ヘビがいるところには金かある」と
いい、ヘビは日本全国で富を招来する霊物です)。

この一枚はコンピレーション・アルバムで、ジャバラレコード代表森田純一さんプロデュース、レゲエプロデューサー&ミ
ュージシャン森俊也、ハワイアン系弦楽器ミュージシャン河西堅、フルート、サックス奏者まやバルーが参加しています。
歌手は、中村瑞希・吉原まりかのユニット、マリカミズキ、前山真吾、牧岡奈美らの奄美島唄の若手に、奄美を熟知熱愛す
る沖縄出身シンガーソングライター屋宜史知、奄美レゲエの開祖、バナナマフィン、「ハブと愛まショー」のハブショーで
知られる「原ハブ屋奄美」の社長・原武宏などが脇を固めています。

はじまりはマリカミズキの「徳ぬさみ岳節」で、まやバルーのサックスとフルートが冴えるジャズとのコラボです。
「らんかん橋」はキーボードと三味線をバックにマリカミズキが恋歌から正月唄の歌詞に換えて歌い上げています。
二人の朗々とした澄んだ歌声をこの曲でも楽しむことができます。

「諸鈍長浜」は、牧岡奈美さんのお得意の曲で、諸鈍の女性の美しさを唱う歌ですが、打ち寄せる白波、どこまでも澄んだ
青空、南の島の燦々たる陽射しの合間を弾け回るような明るい歌声が素晴らしいのです。けれども、後半バナナマフィンさ
んのあけっぴろげた卑猥なレゲエラップで、大変なことになってしまうのです。これには牧岡さんも赤面しつつ、笑うしか
なかったのではないでしょうか(もちろん歌詞の全体を書くわけにはいきません)。

特筆すべきは、前山真吾さんの「正月着物」で、これは奄美大島南部宇検村の遊び唄で、題の目出度さも感じさせます。前
山さんの天地を自在に駈けるかのような自在な歌声が、アップテンポの津軽風の三味線の演奏とじつに見事に合っていて、
鳥肌がたつような素晴らしい一曲です。枯れたサックスの音色は、前山さんの尺八のような野太く雄々しい唱声、幅のある
余韻をもった裏声と非常に相性がよいのでした。

屋宜史知のアコーティックギターの旋律に乗った「行きゅんにゃ加那」と「ヨイスラ節」の侘びた境地も素晴らしいです。

目出度い正月、蜃気楼、虹といったキーワードであらわされるイメージをこのアルバムで感じました。
不思議感、シュール感は充分に溢れています。
でも、「マジムン」的な魔幻的イメージ、闇のイメージはむしろ稀薄です。