前山真吾『星降ル島ヌ唄』─島唄アルバムその2

2007-09-30




前山真吾さんの『星降ル島ヌ唄』を聞きました。前山さんの唄は、奄美南部の宇検村の独特な節回しを受けた唄です。
「シマ」とは奄美大島などの島を意味するのではなく、生まれ育った集落を指し、島唄というのは、育ち村の独特のう
たいまわしと歌詞で唱われる唄の意味です。島嶼の「島」ではなく、伝統地域共同体である「シマ」の唄ということで
す。
海潮の返し波のような独特な裏声で知られる奄美島唄ですが、大別すると、北部のカサン(笠利)節(笠利・龍郷地区)、
南部のヒギャ(東)節(瀬戸内、宇検地区)の二つの流れがあるといわれます。
北部のカサン節は平明かつおおらか、対して南部のヒギャ節は、上下に激しく起伏する歌い方が特徴で、それそれなだら
かでひろびろとした地形と、入くんだ起伏に富む複雑な地形が唄に反映されているとよくいわれます。
宇検は、坪山豊さんや石原久子さんなどの著名な唄者を輩出し、島唄「カンツメ節」の故郷です。
家奴、「家人」(ヤンチュ)であったカンツメが、村役人岩加那と恋仲になり、逢瀬を重ねるのですが、カンツメに思い
を寄せていた主人に嫉妬され、身を投げて死んでしまうという唄です。

奄美の島唄は、現実に起きた事件にまつわる唄が多く、島唄は、その意味で、歴史の記憶装置、過去を忘れないための唄
であるとも言えます。宇検近辺では「歌うとかんつめの亡霊が出る」 といわれ、この唄を唱うことが禁じられていたそう
です。笠利の唄者の中村瑞希さんは中学生の頃、かんつめ節を知り、「こわい」と思った。歌っても亡霊が出ないでほし
いと願ったといいます。「唄と現実がつながっている。島唄の力を感じる」と述べています。(神谷裕司「奄美島唄(かん
つめ節・かんつめと岩加那─奄美大島・宇検村)」Asahi.comトラベルより)

ヒギャ節を代表する若い唄者、前山真吾さんは偶然耳にした島唄に衝撃を受け、石原久子さんに弟子入りして島唄を唱うよ
うになりました。抑揚の激しい節回しと、野太い声は、切れの深い裏声の歌声にひきとられ、尺八の図太い音のような鋭さ
と大胆さを具えた唄い方です。
前山真吾さんも、このアルバムでカンツメ節を唱っています。悲しい恋の唄ですが、高くも低くもうねりながらに響く裏声
が、「鳥も通わぬ島に行って二人一緒に暮らそう」という哀切溢れる歌意を充分に表現しています。