書評:岩崎雅美編 『ウイグル族女性の家族と生活』
  東方出版 2006年


2007-09-12

ウイグル族は、中国西部のシルクロード圏に居住するチュルク(トルコ)系の民族です(言語はアルタイ語族チュルク語群
ウイグル語)。
沙漠の多い新疆ウイグル自治区内にあって、ブドウ栽培など、オアシスに居住する民です。
私の勤務する東京理科大学は、新疆ウイグル自治区内にある大学との提携から、多くの留学生を受け入れていて、学術交流
や、共同開催のセミナーも多く、私自身もウイグル族の先生や学生とのつきあいが少なくありません。
出張の際、新疆ウイグル自治区の省都、ウルムチではウイグル族の家庭にホームスティさせていただいています。
だから、ウイグル族について、言葉はできないまでも、勉強はつづけていこうと考えています。

  ウイグル族は、イスラーム教を受け入れている民族で、社会的にも父系原理が強く、伝統的には女性が社会の表にでること
が少なく、生活のあり方が今ひとつみえにくいという嫌いがありました。
そのなかで、ウイグル族を女性に視点を当てて、男女の性差と社会的在り方というジェンダーの立場から研究した本書『ウ
イグル族女性の家族と生活』は、ウイグル族社会の実態を、伝統的なあり方から、中華人民共和国成立以降、現在にいたる
までの変化も含めて、詳細に報告しています(出版元の東方出版さんは私もたいへんお世話になっている出版社です。タモ
リ倶楽部でも取り上げられるような珍しく高価な図鑑本をはじめ、名著奇書も多い素晴らしい出版社です。私の『神像呪符
〈甲馬子〉集成─中国雲南省漢族・白族民間信仰誌』2005年も東方出版の今東成人社長の尽力でこの世に出た本です)。

ウイグル族は、イスラーム教の教えにしたがって、伝統的には一夫多妻制度も存在しました。
服部範子氏の論文「変わるウイグル社会と女性の生活変動」では、女性が妻を訪問するとき、夫が側にいて見守るなど、
男性が妻の管理をしているという意識も強いといいます。
宮坂靖子氏の論文「トルファンにおける女性の生活─家族・ライフコース・仕事」によれば、ウイグル族は母と娘は結び
つきが強く、実家を毎日のように日常的に訪れるといい、服部範子氏も「変わるウイグル社会と女性の生活変動」で記す
ように、出産もよほどのことがなければ実家にかえってするそうです。
また、母と娘の結びつきが強いことを象徴する習慣として、眉は濃く、両眉が近いのが美しいとされることから、子供の
ころオスマ(植物の葉でつくる眉墨)をつけて両眉をつなげる習慣があります。オスマをするのは子供が美しく育つよう
にという理由と、子供が成長しても親許の近くにいるようになると信じられています。

本書は、このように母と娘の関係性、あるいは女性たちのネットワークのあり方について様々な知見を与えてくれます。
また、夫との関係では現在のウイグル族は、離婚も再婚も再々婚も多いということで、たんに夫に従属しているわけでは
ない女性の生き方がわかります。
ウイグル女性の一生を化粧と服飾から論考した岩崎雅美氏の「ウイグル女性の生活と服飾─強いジェンダー意識の表現に
ついて」は、幼児の折、坊主頭にしてから、一生髪を切らないという毛髪の美にこだわるウイグル族女性の美的感覚や、
指輪をして料理をすると料理がおいしくなるなどの主婦の美徳に通じた俗信に触れ、あわせて立ち膝、胡座座りの習俗に
ついて、ウラルアルタイ系民族から漢族、朝鮮族、古代日本の習俗にまでつながる幅広い考察をされています。

岩崎雅美氏と村田仁代「ウイグルの文様の特色とキリヤの装飾」では、南新疆ウイグル族の服飾から、年齢や既婚、未婚
などの個人情報が表現されることを教えてくれます。

久保博子「ウイグルの住まいと生活の特徴─住み心地」、瀬渡章子氏の「ホータン地区ウイグル族の住まいと生活」では
ウイグル族の建築からみた生活様式が理解でき、また中田理恵子氏の「ウイグルの食生活と栄養」では食生活の概要を知
ることができます。取り上げられる地域も、中東部トルファン・南部のホータン・東部のハミ・北新疆草原地帯のイーニ
ン・西部パキスタン国境辺のカシュガルなど、新疆ウイグル自治区内の各地を広範にとりあげています。

この本は研究書ではありますが、読者を選ぶことはありません。民族誌としても充実した内容をもち、写真が豊富で、し
かも文章は平易です。ウイグル族の女性のみならず、その社会と文化についてたいへんわかりやすく、全面的に教えてく
れる素晴らしい本です。
総じて、父系原理が強い社会の女性のありかたを考えるという点は、女性論に関心のある方には間違いなく役に立つ本
です。
なお、先行する姉様分の本に、岩崎雅美編『中国・シルクロードの女性と生活』(東方出版、2004年)があります。