馮艶監督の『禀愛』─「雲之東フォーラム」その1

2007-10-17

中国ドキュメンタリー映画の若手監督と、これまで雲南で三回(第三回目は中止)開かれた雲之南映像展のコーディネータ
ー三人を招いた雲之東フォーラムが開かれました。
明治大学の丸川哲史先生と、一橋大学の大学院生、佐藤賢さんの企画です。佐藤賢さんは私が東京都立大学で助手だったと
きの学生です。最近まで中国は山東省に留学していたと思っていましたら、素晴らしいテーマをつかんでいたのだなと感心
しました。「竹内好研究会」の中心メンバーとして、この企画を実行したのでした。
フォーラムは二日間に渡り行われ、10月13日、10月14日と、明治大学の和泉校舎で行われました。

初日は三人のインディペンデント系ドキュメンタリー監督、馮艶さん、黄文海さん、胡新宇さんの三名の作品上映と、トー
クでした。
馮艶さんは日本留学中に日本のドキュメンタリー監督、故・小川紳助監督に強い影響を受け、ビデオカメラを手にした人で、
長江の三峡ダム建設で立ち退きを迫られた家族に取材し、ある主婦の行動と日常を10年のつきあいと6年の歳月を費やして記
録した『禀愛』が上映されました(部分上映)。
かつて小川紳助監督が描いた三里塚の反対運動に通底するモチーフは、現代中国にも無数に出現している現実とももちろん呼
応するものです。
彼女は長江と、ダム建設によって引き起こされた水没地域の社会的変化にこだわった作品が多く、この種のドキュメンタリー
映画としては、『水没の前に』(『水没之前』)『長江エレジー』(『長江悲哀』)などの一連の「長江もの」ともいうべき
ドキュメンタリー映画といえる作品群の一つであるといえます。

しかし『水没の前に』などとは違い、ダム建設反対運動と群衆を撮るというよりも、特定個人の生活に徹底してフォーカスを
絞り、社会的な事件がもたらす個人と家族の影響を仔細に記録していることが特徴です。
暮らしの全体像のなかに、移住拒否をした家族の「戦い」が展開する様を取り上げてますが、反対運動を直接扱うのではなく、
監督自身の口を借りれば、

「人はどのように考え、行動するのか」

という個の原点を見つめた作品です。
主人公の主婦禀愛に密着しつつ、彼女の「夢」へのこだわり、「魂」という言葉へのこだわりもしばしば彼女の語りを通じて
記録され、一主婦の内面の風景までをもこだわりを持って踏み込んでいます。
一見なんの変哲もない、普通の農民、普通の主婦が、梃子でも動かない強い個我をもって、ダム建設という中国史に残る歴史
的事件の前に、政府の政策に抵抗しつづけた記録です。