「曝す」というストリート・カルチュアー─胡紫薇氏の夫に対する不倫テレビ公開暴露事件について


2008−01-23


今朝、仰天ニュースが飛び込んできましたので、ちょっとその寸評というか、私なりの見方を書いておきます。
でも、ニュースの解説ではなく、あくまでも中国文化の一つの性格を指摘したいと思うのです。

北京テレビアナウンサー胡紫薇氏、夫の中央テレビアナウンサー張斌氏の不倫をテレビで公開暴露というニュースです。
ユーチューブで胡紫薇氏の名を検索すれば、字幕つきですぐみれます。

北京オリンピックを前にして中国CCTV5チャンネルが「奥運頻道」(オリンピックチャンネル)と名前を変えることになり、
その栄えある式典の席上、中央テレビキャスターの張斌氏が壇上に立ったとき、突然妻の胡紫薇(北京テレビキャスター)が
マイクを取り上げ、張氏の不倫を暴露、張氏の不適切な関係のニュースは、全世界に暴露されてしまいました。
この間、張氏はただうろたえるだけでした。

犬も喰わない夫婦喧嘩の全世界中継という、まったく男から見れば恐ろしい事件が起きてしまったのです。

こわいですねぇ。

なお、奥様の胡紫薇さんは、昨年の夏、日本で大きな話題となった『段ボール肉まん』の虚偽報道をした北京テレビの「透明
度」のメインキャスター兼プロデューサーだったため、テレビ番組の表舞台から消されてしまった事件があったばかりです。

夫婦間のスキャンダルも「透明度」にこだったというと下世話な言い方ですが、 私の関心はこの夫婦の個人的な顛末ではあり
ません。

私は、それを見て、ある身近な出来事を思い出したのです。この暴露事件は、テレビというメディアを使ったというところは
新しいのですが、こういうことは、じつは中国ではよくあることなのです。

私の中国の自宅の近所で、若夫婦が喧嘩したことがありました。そのときも奥さんが門口に出て、旦那のあることないこと、
すべて洗いざらいぶちまけたのでした。両手を天に突き上げて、涙ながらに、彼女はひたすらわめき立てたのです。
私はそのとき悟りました。中国の夫婦げんかで、男が勝つことはけっしてないであろうと・・・・。

夫婦喧嘩の定番でもあるこういう光景を中国では、「罵街」(マーチィエ)といいます。文字通り「街で罵る」の意味です。つまり公開のストリート
で罵ることなのです。

中国のネット上の投票では、奥様の方を支持する意見が圧倒的であるようですが、この事件の背景には、女性側が夫の悪事を
公開で暴露する中国特有のストリート・カルチュアーがあることはたしかで、それだからこそ、中国人も奥さんの行動を支持
するのだと思います。

公の場に「曝す」という意味では、旧正月に門扉の左右に貼るめでたい対句である春聯が、家族の新春の幸せを伝えるメッセ
ージを掲示し、詩人が壁に詩を書きつける「題壁」の行為も伝統的な表現方法です(これらについては私の先生の木之内誠先生
が「題的事象」と命名して研究されています)。あるいは茶館で劇の一くさりを披露する愛好者(票友)の行為もそうですし、魯
迅が『阿Q正伝』で描写したような、犯人を引き回してから処置するみせしめ「示衆」の慣行も共通するのですが、公開の場に
私的な感情や公的な制裁を提示するという社会習俗の一例として、今回の事件も数えられると思います。

だからこの事件はキャスター個人による「公私混同」なのではなく、公共という「公」の場の「掲示」機能を利用した、「私」
の訴えという点で、まったく腑に落ちる行為ではあります。

「曝す」というストリート・カルチュアーが、そのままネットを通じて全世界に発信されてしまう時代になってしまったのが、
夫君にとっての最大の不幸だったのです。