中国浙江省舟山島の人形劇─侯家班ワークショップ


2005-09-24

中国の沿海地区の人形劇団が来日しました。
浙江省の寧波市の対岸にある舟山諸島は、観音信仰で有名な土地で、いわゆる普陀落観音の信仰で知られています。
馬場英子先生(新潟大学)を中心として当地の人形劇団の調査が行われていましたが、今回馬場先生の肝いりで当地でもっと
すぐれた芸をもつ侯家の御家族「侯家班」を呼びました。

今回のワークショップは、9月18日に代々木のオリンピック記念青少年総合センターで開催され、中国木偶戯研究会と、中
国民間文学・文化の研究会である「中国民話の会」の9月例会にあわせての共同開催でした。
馬場先生の解説によると、舟山の人形劇は約150年前に寧波からきたもので、はじめは後台の演奏などなく、一人舞台であっ
たのが、先代の侯偉義さんの時代あたりから節まわしが変化し、音楽もにぎやかに、ドラ、カネ、三味線、胡弓などを派手に
鳴らすものになったといいます。
舟山の定海区を中心に20もの劇班があるとのことです。
人形回しとせりふ、うたを担当する侯雅飛さんは、1953年生まれ、夫の顧国芳さんは1951年生まれで、胡弓、チャルメラなど、
さまざまな楽器をこなします。
雅飛さんの兄の侯国平さんは1949年生まれで板胡(三味線に似たギター状の楽器)担当です。


土地神の廟である土地廟や、航海安全の女神を祭祀する天后廟
などの祭りや、正月、子供の誕生、老人の誕生日、結婚、葬儀、新築祝いなどに上演されるそうで、一本二時間前後とながく、
はじめからおわりまで劇ばかりを見物するというよりは、宴席の出し物のようにしてみることがよくある鑑賞の仕方のようで
す。



侯家班の人たち。左から侯雅飛さん、顧国平さん、侯国平さん

木彫りの二階建ての舞台のうしろに人形回しが一人ですわり、舞台の下から手を伸ばして人形を動かします。
片手にひとりづつ、いわゆるマペットのように人形の衣服の下に手を入れて人形回しをします。
この点台湾の布袋戯と同じ様式で(舞台の下に布を張るため布袋戯というそうです)、福建省の泉州で行われている糸繰り人形
のタイプではありません。
上演前に念入りに人形を順番を考えて並べます。この日は午前のワークショップで、結婚式を言祝いで上演される「十子図」
「天賜黄金」を演じてもらい、午後は「白兎記」(李三娘)を上演していただきました。
このほか戦闘場面の一段を再現してもらったり、虎と戦う場面を再現してもらいました。
槍などは人形の手から離れて、本当にくるくる回り、凄い技でいきいきと戦いの場面や虎退治の場面を演じていただきました。
「十子図」は夫と妻のかけあいで、家に凱旋する夫を迎えて、九人の息子と二人娘が、みな出世するというめでたい内容を妻
が唱うもの。
しかも孫が科挙で首席合格し、状元となって、皇帝の娘と結婚するというめでたいづくしであります。
はりのある声で朗々と言祝ぎの唄を唱いあげる侯雅飛さん、人形劇は、のどがいちばん大事だとのこと、人形回しじたいはそ
んなに難しいものではないというのですが、それは遠慮していっておられるでのあって、新郎新婦の人形が互いに将来白髪に
なるまでよろしくと、頭をさげて拝礼する場面など、とても生き生きと、本当に人形どうしが目の前で婚礼をあげているよう
にみえました。


  お人形だって祝言をあげるのですよ

小さい人形だけあって、とても仕合わせそうに、微笑ましくみえるのでした。
「天賜黄金」は、「二十四孝」、つまり二十四の孝行息子の物語の一つ、周文彬の物語です。以下、馬場英子先生の訳と紹介
から手短にまとめます。

周文彬と妻がは貧しい暮らしをしているが、夫婦仲は睦まじい。
ところが母病気で、治療代がない。そこで赤ん坊の息子を売って治療代にしようとする。
「やはり息子を売って薬代にしましょう」。
この孝行が天に届き、天帝である玉皇大帝の耳に達する。
財神菩薩が赤子を抱いて古廟で一夜を明かしている周文彬のもとに、黄金のインゴット、元宝を授ける。
「金元宝を頂いて、息子を売らずに親孝行できるようになってよかった」。
子供を売ることなく、親孝行ができ、めでたしめでたし。


  出番を待つ舞台裏の人形たち

午後のワークショップでは、「白兔記」が上演されました。
以下も、馬場英子先生の訳と紹介から手短にまとめます(ここではだいぶ省略しています)。
五代の時代、後漢を建国した劉知遠とその妻李三娘の物語。明代の南方戯劇、南戯の代表作。
馬場英子先生の解説では、二十世紀になり、金代の「劉致遠諸宮調」の一部やも明代の成化年間本「白兔記」が発見されて、
地域・時代の変遷がある程度あとづけられる劇目で、侯家班の演じるものは、内容的には明の万暦年間に南京で刊行された富
春堂本が近いようであるといいます。
ただ、脚本がなくすべて台詞を口伝する侯家班の人形劇は、先代の侯偉義さんの演じる内容と、後継者である侯雅飛さんの内
容では雅飛さんの創作も加わり、異動があるそうです。

本日の上演内容は、劇中の主には第四段と第六段です。手短に第四段の内容を紹介します。
金持ちの李百万に死にかけていたところを救われた劉致遠は李百万の娘、三娘が強盗に襲われているのを救った縁で、李家の
婿となる。
ところが李百万の息子夫婦は、劉致遠を亡きものとして、妹の三娘を連れ出して金持ちとの再婚を迫る。


    嗚呼! なんて不幸な私なのかしら?

劉致遠は軍隊に投じて、妊娠した李三娘を置いて不在になるが、(以上第一段の内容)金持ちとの再婚を拒否した李三娘は嫂
に水くみと粉ひきの重労働を強制される。


御覧ください! 兄嫁が弟嫁をいじめています!

みかねた土地神は、三娘が皇后になる身であるので助けてあげようとし、水くみと粉ひきを手伝う(第四段上演内容)
劉致遠は寒さの中で死にそうになっていたが、岳翡珍に助けられる。
翡翠公主に閉じこめられ、十万の兵の命を脅された劉致遠は、黎山老母の媒酌で結婚し、十五年後帰国がかなう。
息子劉咬臍は、父か安南に行き、三日前に戻ったので、武術の腕前を見せようと、家来を連れて狩りに出かける。
土地神は息子劉咬臍を母李三娘に会わせるべく、白兔に化けて劉咬臍を誘い出す。
白兔は井戸端で働く李三娘のスカートの下に隠れ、劉咬臍は李三娘に白兔を渡すように頼むが、知らないというので、怒って
李三娘の水桶を壊す。


 舞台を跳び回るアンゴラ(?)うさぎさん

李三娘が弁償して欲しいと頭を地につけて頼むと、劉咬臍は頭痛で立っていられなくなる。
白兔が縁で、母と息子は再会し、父と母も再会がかなってめでたしめでたし。

最後にメモをいくつか。

李三娘は束ねた長い髪を振り乱す仕草で、悲しみの感情をあらわします。多少大げさな感じです。
よよと袖を濡らす泣き方が、とてもいい感じの演技です。
白兔をスカートの下に隠すのは、侯雅飛さんの創作ですが、これは父の偉義さんは反対だそうです。
白兔は土地神の化身ですか
ら、神が女性のスカートの下に潜り込むことはあり得ない。この意見は、私は正しいと思いま
す。

白兎は、まるで白兎に見えない白毛玉です。浙江省では山魈といういたずら好きの山の精が、アンゴラ兔の毛を一夜にして丸
坊主に刈り取ったりするそうですが、毛を刈られそうな白兎といった感じです。

「白兔記」第一段で登場するスイカの精(西瓜精)は、黒い隈取りで、清廉潔白な名判官、包青天(日本の大岡越前ものの元
ネタにもなった宋代の官僚)と同じ隈取りで、一つの人形を劇ごとに使い分けています。


ワシはスイカの精なのじゃが、そう見えなくもないじゃろうが?