カラスのクイナキ


2008−01-04


奄美の島唄に「太陽ぬ落(う)てまぐれ節」というのがあります。
この唄の前半を聴くと、その不吉な兆にドキドキします。


太陽(てぃだ)ぬ落(う)てぃまぐれに

鳴きゅる鳥小(とぅりぐゎ)

加那(かな)が上(うぃ)やあらめ

吾上(わうぃ)やあらめ

時取(とぅきとぅ)らちみりば

加那(かな)が上(うぃ)むあらぬ


[歌意]


日の沈む間際に

鳴く鳥は

情人の身の上の不幸の兆か

吾が身の上の不幸の兆か

(ユタガミサマに)占ってもらったのだけれど

情人の身の上でもない

吾が身の上でもない


後半ほっとする内容になっているのは、悪い終わり方を忌む奄美民謡の倣いです。他にも「らんかん橋」なども二番で一番の
良くない内容を改めたりしています。

恵原義盛さんによると、カラスが不吉なのは、「クイナキ」という特殊な鳴き方をするときが不吉であるとのこと、

「〈ワオー〉とか〈グワー〉とか不気味な声を立てる啼き方をクイナキといいます」。

日本各地でもカラスが変な鳴き方をするのは死者の出る予兆と言われていますが、奄美でカラスのクイナキというのは「悔い
泣き」のことではないかと恵原さんはいっています(『奄美のケンモン』海風社、1984年:
172頁) 。

奄美在住の恵原さんの著作は、島唄の本にせよ、怪異の本にせよ、事象をまんべんなく網羅した該博さと、実体験と考察のも
つ深みがあります。恵原さんはこれを病人の発散する臭気を嗅ぎ分けてやってくるものであろうとしています。

「ハブアタリをした元気だったコワデオジという人が家に担ぎ込まれたとき、カラスが慌ただしく、ターギの梢に飛んできて、
クイナキを始めた。またコワデオジの家の側の墓地を覆うているヒキラギ(あこうの一種)の枝にとまり、しきりに家に向か
い追い立てられるようにクイナキをしている。父がオジの家から帰ってきて、「アイエー、ガラシヌクイナキシューリヤー」
(あいやー、カラスが悔鳴きしているなー)とつぶやいた。その晩医師の手当てもむなしく、コワデオジはみまかった」

(大意)(『奄美のケンモン』海風社、1984年:172-173頁)。

カラスが鳴くと不吉であるという発想は、日本だけでなく中国にもあります。

しかしながら、カラスはかならずしも縁起が悪いというわけではありません。イギリスでは王室を助けた神聖な鳥です。
中国ではカラスは古代エジプトと同じく太陽のなかにカラスがいるといい、太陽の黒点をカラスに見立てています。サッカー
の日本代表のユニホームについている三本足のカラスがそれです。「三青烏」といいます。馬王堆の古墓からも三青烏入りの
絹絵が出土しています。

雲南省では、少数民族のハニ族で、村の入り口の門の上に木製のカラスを置いたり、ナシ族で神の使いになったりするところ
は、日本の八咫ガラスと同じで、神話上信仰の対象ともなっています。お隣のビルマではカラスがなくと商売繁盛というそう
です。韓国でも、新羅時代は、母鳥にえさを与えることから、親孝行な鳥として吉祥の意味があったそうです。

カラスが不吉であるという伝承は、ヨーロッパでもあり、中世の魔女狩りの時代に、魔女が黒猫や黒カラスを「使い魔」とし
て身近に置くといういわれから生じたとされます。アジアでは中国が起源かもしれません。韓国でも「烏が伝染病流行時に来
て啼く家の病人は直ぐ死ぬ」「烏が村の堤防付近で沢山集まつて群をなして鳴くとその村に伝染病が流行する」「深夜鶏や烏
が啼いたりすると兵乱がある」(楢木末実『朝鮮の迷信と俗伝』東京・龍渓書舎、2001年:43-45頁[京城・新文舎、1913年の
復刻版])などといい、伝染病と兵乱の流行の兆となり、あるいは、カラスが泣くと、厄払いのためカラスの方向に唾を吐く
という風習がかつてありました。雲南省の漢族ではおかしな鳴き方をすると人が死ぬ」といっています。いずれも、日本でカ
ラスが死を招くといわれている俗信と通じています。

そこでふたたびこの台詞を出してむすびたいと思います。

「アイエー、ガラシヌクイナキシューリヤー」

東アジアにおいてカラスが不幸を呼ぶとされているのは、カラスが夜がもたらす漆黒の闇から分泌される不吉さを鳴き出して
いるからではないでしょうか。