五通神─ 中国南部の物怪信仰


2007-10-7


五通神は浙江・江蘇・福建など、かつて中国南部に広く信じられた神様です。
「独脚五郎」「独脚五通」などの別称があり、一本足の精怪として語られる場合も多く、
この点は中国南部の山の精である山魈伝承と密接な関係があります。

五通神は動物精が神の名を語るとされる例が多く、人間の姿に化けてあらわれ気に入った家の婦人を淫するなどといわれ、
また五通神を神として家に祀るならば、五通神は周囲の家から財物を掠め取り祭祀者の家に与えるが、祭祀を拒否したり、
無礼なふるまいが少しでもあれば怒ってその家の財物を外にもちだして没落させてしまうとされます。
物品を運搬することにより、特定の家庭に富をもたらす典型的な「運搬霊」の一つといえます。

宋・洪邁『夷堅志』「丁志」巻第十九「江南木客」の記事をあげておきます。

 「長江以南は山地が多く、この地の風俗は祭鬼が盛んである。その神怪ははなはだ特異で、
 祠は岩石や樹木のところに建ち、村々にある。両浙、江東一帯では『五通』と呼び、江西、
 閩中(福建)では『木下三郎』といい、『木客』ともいい、一足のものを『独足五通』という。
 名は異なれど、その実は一つである。
 (中略)(五通の)変幻し妖惑すること、だいたい北方の狐魅と同じである。あるいは人をして
 突然に富ませることがある。そこで利を貪る小人は、みな好んで迎えてこれに仕え、
 分に合わない福を得ようと企む。もしもわずかでも五通の意志に反すれば、銭財を奪い去って、
 他にゆかせる。
 夏の盛りには、多くの者が江湖の間に木材販売に出るが、この妖物は隠れたり現れること常なら
 ぬものがあり、人々は極めて畏れ、ましてや叱りつけたりはせず、ただ慇懃に祭祀する。
 とくに淫色を好み、士大夫、美男子となったり、あるいは人の心に好むさまざまな姿に化す。
 あるいは本形をあらわすだけの者もある。
 その正体は猿、あるいは犬、蝦蟇の類であったり、本性は異なるが、強健で、凍った鉄のよう
 に冷たい。陽物は逞しく、婦女がこれに犯されると、痛くて堪らず、憔悴して気色を失ない
 精神は萎えてしまう」。

五通神は、同じ動物精の信仰である中国北部の狐の精の信仰である胡仙の信仰と比べられ、
いわゆる「淫祠」といわれるまっとうでない非公式な民間信仰であるといえます。
女性を好むという特徴は、神と女性との間の性的関係を強調することで、特定の家庭が秘密祭祀に
よって富を得ようとするとされる五通神のまがまがしい性格を表現しているでしょう。
つまり、女性との性的関係の見返りとして、五通神は当の家庭を富ませると理解されているのです。
ただ、五通神と祭祀者との関係は、たいへん不安定な関係で、長続きしないと考えられています。
五通神はちょっとしたことで、祭祀者の富を逆に奪って没落させます。
この点が富の獲得と喪失が表裏一体であるような五通神伝承の特徴であるといえましょう。
おそらく共同体の内部では、まっとうでない神の祭祀がもたらすありうるぺき結果と考えられてい
たのではないでしょうか。